読書感想文『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介

前回は49円で買った「雪男は向こうからやって来た」の読書感想文を提出しましたが、今回は102円の『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』」です。本書は第8回開高健ノンフィクション賞等を受賞しています。


コスト的にも倍以上かかってますので心して読書したと言いたいところですが、雪男を読み終わった2月から取り掛かったのですが今までかかってしまいました。正直、前半戦の内容はすっかりガスがかかった状態で見通しはさっぱりですが、大体のストーリーは前回の雪男と似たようなものですから大丈夫と思います。

読書感想文「雪男は向こうからやって来た」角幡唯介
http://ttripper.blogspot.jp/2016/02/blog-post_55.html

これほど長時間かかってしまったのはタイミング的に適当な読書時間がなかったためです。日頃から読書に時間を割く暇はほとんどありません。というか読書の時間がもったいないのです。どうせ脳内の妄想体験ですから半分意識が朦朧とした夢の続きのような電車での移動時間なんかが最適なのですが、自動車通勤族にはそんなシュチエーションも少ないのです。今回、お盆の移動時間で一気に読み切りました。

昔は勉強のために読書をしっかりしなさいと先生に言われたのは昭和の時代のことです。
今やネットが発達して大体どこからでもスマホでリアルタイに繋がる時代です。
何も紙に静的に刻印された文字を読まなくても、動的に処理しきれない膨大な情報が飛び交っている時代です。
その殆どはゴミ情報ですが、書籍だってその殆どがゴミ情報と同じようなものです。
「いやいやそれは違うよ」というのはあなたが書籍フリークだからで、ネットフリークからすると「いやいやそれは違うよ」ということになります。媒体はともかく個人として何を感じ取るかということで、それが文字でも絵柄でも色や音であっても同じことなのです。
印刷技術がそうなように、技術的な進化とともに広い視野が必要なことだけは確かだと思います。

ということで、そろそろ読書感想文に入りたいのですが、前回同様、読書感想文というものはネタバレの暴露本と同じなので、真っ新でこの本を読みたい方は回れ右してこのブログをクローズしてください。どうせ大した内容ではありません。

--- ノーリターンポイント ---

本書は「雪男は向こうからやって来た」という同じノンフィクション作品ですから、その事があった時間的な背景が大切です。
角幡唯介は北海道芦別市、1976年の生まれで現在40才、実家がスーパーマーケットを経営していて割りと裕福な家庭で育っています。大学時代に探検部に所属していてその魅力に取り憑かれたようです。

この本を読む上で、まず「五マイル」とはどれ程の距離なのか?ということを体感的に理解しておくことが大切です。1マイルは約1.6kmですから5マイルだで約8kmになります。8kmといえばオンロードを自動車で走れば15分程、自転車だと30分程度でしょうか?それ程の距離になります。

ただそれが山の中となるとかなりの時間を要するのは想像できます。よく裏山にハイキングしに行きますが、獣道のようなところを1km程走破するのは大変です。もっとも熊野古道のような整理されたところでは半日もあれば20kmほど移動するのも容易いなことです。そんなたった「五マイル」に彼は拘ったわけです。

Google Map ツアンポー峡谷
https://goo.gl/maps/YDDNRwoVfeB2


この本は雪男同様に、角幡が実際に体験した話と、過去の資料的な話が交差して物語が進みます。これが逆にややこしくてリズム感が途切れる原因にもなっています。話により深みを持たせる手法でしょうが、想像力でカバーした資料的な話はバッサリやってしまってもいい感じもします。

前半はすっ飛ばして、ひっかかったのは「若きカヌーイストの死」という章です。
自分が趣味でカヤックやっていることもあって、この本の中で一番興味深く読んだ部分でもありますが、まず「カヌー」という表現は間違いなので指摘しておきます。

おそらくカヌーではなくカヤックだったはずです。
オリンピックなどのスポーツ競技でもカヌーという言葉を間違って使っているので、よく勘違いをしてい方がいますが、カヌーとカヤックは二輪車の自転車と幼児用の三輪車ほど違う別の乗り物です。
三輪車のことを自転車とは言わないでしょうし、その逆に自転車のことを三輪車という人はまずいないと思います。それほど全く違うもので形も用途も全然違います。

カヌーとは丸太を繰り抜いたように形をしていた上面がオープンになっています。比較的温かい地域で作られる船で人や荷持を運ぶのに利用されますが、波が穏やな海や湖などの静水の上を移動するための道具になります。

それとは対照的にカヤックは北極圏など寒い地域で作られた船で、上面がクローズされていて船全体が密閉式になっています。
カヌーはガンネルという船の縁に強度を持たせて水圧から船を保つ構造ですが、カヤックは飛行機と同じモノコック構造で全体の強度を出す仕組みになっています。
カヤックの密閉された胴体の空間には人や物を詰め込んで運べ、例え荒波でひっくり返ってもコックピットのコーミング部分から水が入らないかぎり船全体が浮力体となって沈むことはありません。極寒の荒い海を渡るツールとして最適だったのです。

荒れ狂うツアンポー川をカヌー下るバカはいないと思います。それこそ一瞬で転覆するでしょう。カヤックだからこそある程度出来ることで、この間違いは船の文化や物理的な教育的配慮としても痛恨の間違いです。もし私が国語の先生ならこの作文は赤点評価です。

ハッカーとクラッカーを混同したり、マルチコプターをドローン呼ぶような間違った言葉の使い方は訂正してほしいものです。カヌーとカヤックも明示的に区別して使い分けるべきでしょう。特に言葉に弱いNHKには困ったものです。

How Indians Build Canoes ( 1946 in Color )
https://youtu.be/enMSwz5BWGo


Building a Kayak Part 2
https://youtu.be/9lqYv9Cramo



ひとまずカヌーとカヤックの違いは置いといて、この章で武井義隆という若い青年がNHKのテレビ番組の取材で亡くなるのですが、彼が先に転覆した只野のカヤックを追いかけたのは人間として極自然な本能的な反応だったと思います。おそらく私でもたぶんその方向に操舵してしまうでしょう。とっさの判断では自分の身にどの程度の危険があるとか深く考えることはしないと思います。後になって第三者が思う感情と、その場でそれを体験した瞬間的な感情は違うでしょうし、それを想像力でカバーするのは無理があるのかもしれません。

それより、そのような状態に追い込まれて行った青年の気持の葛藤が痛く伝わってきました。
角幡のように好き好んで命がけの冒険する変態プレーを好む人間は極稀だと思います。
きっと彼はツアンポーには行きたくなかったのでしょう。そこに追い込まれた彼の人生が不憫でなりません。それを言ってしまうとあまりにも彼が哀れに思えますが「選ばなれば選ばれる」が人生の教訓でしょう。

ちなみに、オリンピック競技にもなっているカヤックのワイルドウォーターという種目では、他の選手がアクシデントで極めて危険な状況の場合、競技中でもあってもその選手の救助にあたらなければならないルールになっています。もしこれを怠った場合、生涯にわたって選手資格を剥奪されます。カヤックとはそういう乗り物なのです。

この本で繰り返し出てくる表現として、どれだけ大変な状況だったのかということで盛りぎみでこれでもかってほどのボリュームで書かれています。「この話前にもあったような?」というデジャブ的な文面も多くて「もういいよ、わかった」ということでかなりの部分は斜め読みにラッセルしました。
ツルツルした岩肌の状態とか草やダニがどんな風であったのか?
そんなディテールが好きな方はじっくりと読んでみてもいいかと思いますが、すぐにお腹いっぱいになると思います。

大体、探検と言いながら、その大部分の工程は現地住民の案内に頼っています。言い換えれば地元住民からすると探検でもなんでもなく普段使っているいつも通る道なわけです。知らないのは外から入ってきた角幡のような探検家気取りの野郎だけでしょう。

自宅から車で30分も走れば山のど真ん中に入れます。そこから大した地図もなく歩きで山に入ったとしたら、おそらくツアンポー峡谷となんら変わらない体験ができると思います。それほどこちらド田舎はジャングルだったりします。
この本の中で何度も滝が登場しますが、是非こちら地元の那智滝を見てほしいものです。その落差は133mで、ツアンポーの30mの滝など小川のせせらぎと同然です。


この本でもそのような下りがありますが、現在のようにテクノロジーが発展した世の中では、探検家はレッドリストに入れてWWFで保護しなければいけないほどの絶滅危惧種に該当します。特に「Google Earth」によってほぼ壊滅状態に追い込まれたといっても過言ではありません。

無許可で国境を超えてスパイっぽく潜入するまでもなく、スマホをツルツルするだけで下手をするとツアンポー川に落ちている岩の形まで鮮明に確認することすら出来ます。「空白の五マイル」などもうどこにも無いのです。探検とある種のロマンは一体的な感じもしますが、そんなロマンスも消え去ろうとしています。

それでも探検家は生き残りをかけて北極や南極などのさらに辺鄙で価値の無い地域に生業を求めて出稼ぎに出るしか無いのです。その内に地球を離れて火星にでも行くしか方法がなくなるかもしれません。

冒険家という職業?は、地図にも無いような無用な土地に出かけて時々このような書籍のレポートをまとめて提出するくらいで社会に対する有益性はほとんどありません。しかしその数は極少数であることもあって、寛大な社会は彼のようなマイノリティを養うだけの余力があります。彼と彼の家族くらいは十分食わせていけるでしょう。

一つ提案として、今後の冒険家というビジネススタイルについてですが、現状のような、ある程度事前にスポンサーを募って探検をして後に本を出版してその売上と講演活動で飯を食うスタイルではなく、今流にネットを活用してリアルタイムに今の探検状態を切り売りする商売はどうでしょう。?
基本的にはブログ形式で日々の状況報告して時には時間を予告したネット中継もあれば楽しいでしょう。ユーチューバー的にテレビでは実現できないリアルティを共有することが出来るかと思います。
問題は電波と電源ですが、衛星通信と太陽電池でなんとかなるでしょう。
本にしたければ後でまとめればいいでしょう。
今という時間を切り売りする、まさにサラリーマン的な発想のビジネススタイルは探検家という絶滅危惧種の安定収入にも繋がると思います。もしそんな有料コンテンツサービスがあれば102円なら払ってもいいです。

ちなみに、あまり更新されない彼のブログはこちらです。

ホトケの顔も三度まで ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ
http://blog.goo.ne.jp/bazoooka


以上、読書が面倒くさいという方はこちらの動画を見てみるのもいいかと思います。ご本人がこの書籍について色々と語っています。結構手厳しい意見も言われていますが、本を先に読んでいるとさらに楽しめると思います。

角幡唯介 ノンフィクションライター・探検家
https://youtu.be/mBgyebUiq1c



最後に、前回も言いましたが「角幡がんばれ!」
私は彼が好きです。